現在放送中の、25年春のNHK連続テレビ小説『あんぱん』。モデルとなったのは、長年子どもたちに愛されるキャラクター「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんと、妻の暢さん夫妻です。今回は、そんなやなせ夫妻に秘書として20年寄り添い、現在は株式会社やなせスタジオ代表取締役を務める越尾正子さんの著書『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』から、一部を抜粋してお届けします。
運命の出会い
「私は裁縫とかできないので、自分が着る洋服を人に頼んで作ってもらうため、そのお金は自分で稼がないといけないと思ったの。それで速記を習ったの。速記を習いに行く時、汽車の時間に遅れそうな時は、家族の中で時間がある人の自転車の後ろに乗せてもらって駅まで行ったのよ。畑で仕事をしている人たちが、からかうようなことを言っていたけど、そんなこと気にしていられなかったわ」
奥さんは昔をふり返ってこう語った。この速記ができることによって高知新聞社で初の女性記者になり、そして、数ヶ月遅れで入社したやなせ先生と運命の出会いを果たすことになる。
その後、議員秘書になって東京で働くことになった。先に奥さんが東京に行くと、半年後に追いかけるようにやなせ先生も東京に行った。
「仕事をしていて、分からない言葉が出てくると家に帰って必ず辞書を引いて調べたのよ。
ある時『うちの秘書は明眸皓歯だから』と言われたのだけど“メイボウコウシ”の意味が分からなくて家に帰ってすぐ辞書を引いて調べたの、恥ずかしくなったわ」
と奥さん。ちなみに明眸皓歯とは、美しく澄んだ瞳に白く綺麗な歯ということで、美人のたとえである。