定年退職後、セカンドライフとしてあたらしいことに挑戦する元気な人がいる一方で、「ずっと家にいる」「急に元気がなくなった」といったように、活動意欲が低下してしまう人もいます。この違いについて、脳科学者の茂木健一郎さんは、「脳に新しい刺激を与える『生きがい』を持っているかどうかだ」と語ります。今回はそんな茂木さんの著書『60歳からの脳の使い方』から一部を抜粋し、ご紹介します。
定年後にやる気がなくなるのはなぜ?
定年退職を迎えた途端、「急に頭がぼんやりするようになった」「やる気がなくなってしまった」と悩む人は珍しくありません。
なぜ、定年後に意欲低下が起こるのか。その理由は、「社会的役割」が脳に与える影響が深く関係しています。
脳には、社会から求められる役割や地位、つまり「肩書」や「責任感」に応じて活発に働く仕組みがあります。特に大きな影響を受けているのが、「意欲」や「社会的な行動」を司っている前頭葉です。社会とのつながりを通じて前頭葉が刺激されることで、脳は自分の存在意義を感じ、意欲的に行動できるのです。
長年仕事を中心に生きてきた人の場合、職場での役割というものが、多くの方が想像する以上に脳の活動を強力に支えています。
だからこそ、定年になって仕事がなくなって「社会的な役割」や「肩書」を突然失うと、これまで脳を活性化させてきた社会的な刺激が一気に減ることで、脳は「自分が何をするべきか」を見失い、活動が低下してしまうのです。