2003年『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。その後も精力的に執筆を続け、『処女の道程』など多数の著書を持つエッセイストの酒井順子さん。そんな酒井さんが松本清張と「女」の関係について注目し、清張が女性誌で書いた女性主人公たちを考察した『松本清張の女たち』。酒井さんが感じた、清張が、時代を越えて愛され続け、ドラマ化される理由とは――(構成:篠藤ゆり 撮影:藤澤靖子)
松本清張と「女」
松本清張と「女」の関係について気になり出したのは、『神と野獣の日』という清張さん唯一のSF作品を読んだことがきっかけでした。私は鉄道好きということもあって『点と線』などの小説が好きでしたが、「こんな派手でおかしな作品も書いていたんだ」と思って初出を見ると『女性自身』とあり、なるほど、と。
かねて、男性作家が女性誌で連載をするとヘンな作品を書きがちだ、と感じていました。今までの読者とは違う人が読むということを、過剰に意識してしまうのかもしれません。清張さんも、そうなのだろうか。ほかにどんな女性誌で、どんな小説を書いていたのだろうと興味が湧きました。
清張さんが主に女性誌のために生み出したのが、「お嬢さん探偵」というキャラクターです。女子大出身で経済的にも恵まれた家庭のお嬢さんが事件に巻き込まれ、その謎を探っていく。
1950年代末頃は未婚女性が一人であちこち行くのが不自然だとされていたようで、必ず若い独身男性が現れて、お嬢さんを助けて事件を解決に導いていきます。そこに淡いロマンスが生まれたり。
それらの作品を読み、清張さんは清純なお嬢さんを描くのはちょっと不得意だったのでは、と感じました。

『松本清張の女たち』(著:酒井順子/新潮社)