岸田家の長女・奈美さん(右)と車椅子で全国を講演して回る母のひろ実さん(左)(撮影:霜越春樹)
中学生の時に父が急逝し、高校時代には母が病に倒れ車椅子生活に。4歳下の弟はダウン症で知的障害があり、祖母は認知症を発症――。次々に困難が降りかかる日常をエッセイに綴った岸田家の長女・奈美さんと、車椅子で全国を講演して回る母のひろ実さん。現在の「戦略的別居」に、いかにしてたどり着いたのでしょうか。(構成:野田敦子 撮影:霜越春樹)

前編よりつづく

つらさを表すときは3割増しで

ひろ実 ようやく介護認定調査の日が来たら、おばあちゃん、シャキッとしちゃうしね。

奈美 大女優ばりの名演技で「私が三食、作ってます」「買い物は自転車で」なんて言うの。お医者さんの面接でもシャキシャキ答えるから、「認知症ではないと思います。もうちょっと様子を見ましょう」って。結果は要支援2。週に2度、デイサービスに行けるようになって助かったけど、おばあちゃんの認知症はどんどん進んで。

ひろ実 1年後、奈美が事情を説明してようやく再調査してもらえたんだよね。

奈美 前回の失敗は繰り返すまいと事細かにつけてた日記を、支援員さんに「これ、読んでください!」って。

ひろ実 その記録に目を通してもらったおかげで要介護2に。

奈美 おかしいと感じた行動や発言をメモしておくのは、ほんまに大事。あと、同じような立場の人に伝えたいのは、「つらさや苦しさを表すときは3割増しで!」ってこと。

決して嘘をつけってことではなくて、人は懸命に訴えてるつもりでも自然にセーブしてしまうものだから、意識して大げさに言うぐらいでちょうどええのよ。「助けて」を伝えるには、訓練や工夫が必要やから。