
私はケイコ。数年前に夫を亡くしてからも、毎日を元気に過ごし、習い事や友人とのお茶会で忙しい日々を送っています。けれど、もうすぐ70歳。思いがけず「年齢」を意識させられる出来事が訪れ、娘のアケミから指摘されたのです。
もう一回言ってくれる?
聞こえづらいユミコさんが、会話についていけず何度も聞き返す。年のせいなのでしょうが、その姿に胸が締めつけられました。老いがもたらす現実の重さに、私はふと怖さを覚えたのです。
他人事のように思っていたら
習い事仲間で同い年のユミコさんの姿を見て、「聞こえづらくなるのは可哀想だな」と……つい他人事のように思ってしまいました。けれど気づけば、私の背後にも同じ足音が近づいてきていたのです。
もう少しお静かに
自分では普通に話しているつもりが、大きな声を出してしまってていたようで、他の方の迷惑になっていたのです。恥ずかしいやら、申し訳ないやら……。でも、少し小さめの声で話し始めると、聞き取りづらいことに気づきました。「まさか私の耳も悪いのかしら……」という思いが胸をよぎります。
(注釈)耳が聞こえづらくなると、自分の声も聞こえづらくて、声が大きくなる傾向があります。
いつもの集まりも億劫に
娘のアケミの言葉が正しいのは分かっている。けれど“聞こえづらさ”を認めてしまったら、私の中の何かが崩れてしまう気がして――素直にはうなずけなかったのです。
耳に何かつけてる?
気づけば、ユミコさんはもう「聞き返す人」ではなくなっていました。会話を聞き取って理解し、以前よりも明るい表情で楽しそうに笑っています。その姿は、どこか肩の荷を下ろしたように晴れやかで――。
どうしてこんなに変わったのか。その変化の理由を、私は思いがけない形で知ることになるのです。
第3話へつづく。
