イラスト:村田善子
「誰のおかげでメシが食えると思っているんだ」「長女は親の介護をして当然」。親やきょうだいからこのような言葉をぶつけられたとき、どう切り返せばよいのだろう。強い立場の者が弱い者を萎縮させる言葉を「呪いの言葉」と呼んだ上西充子さんに、対抗するためのヒントを聞いた(構成=上田恵子 イラスト=村田善子)

追い詰められていると感じたら

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなど、最近では日本でも「ハラスメント(嫌がらせ)」という言葉が定着してきました。ハラスメントとは、自分の地位を利用して、相手が嫌がることをしたり、言ったりすること。そこには必ず「権力」が絡み、上下関係が存在しています。

私の言う「呪いの言葉」とは、言語化されたハラスメント。労働問題の舞台となる現場では、しばしば見られるものです。たとえば、不満を訴えた従業員に対して店長が、「嫌なら辞めればいい」「給料をもらえるだけありがたいと思え」などと言ったりするケース。彼らは相手が反論できないことを承知のうえで、これらの言葉を吐いています。

呪いの言葉は、言われた側から思考能力を奪って、葛藤を生じさせる。問題がある状況にそのまま閉じ込めておくために、悪意を持って発せられることがほとんどです。

このような呪いは、家庭の中でも多く存在しています。母親が子どもに、「お母さんも我慢してきたんだから、あなたも我慢しなさい」「そんなことして恥をかかせないで」「いつになったら孫の顔を見せてくれるの?」などと言うのもそうですし、父親が「誰のおかげでメシが食えると思っているんだ」「この学校に行かないのなら、学費を払わないぞ」と言うのもそう。

きょうだいの間で、「長男・長女なのだから、親の介護をして当然」「長男の意向が最優先」と決めつけるのも同様です。いずれも家庭で耳にしがちな言葉ではないでしょうか。

言われたときに、自分が追い詰められているように感じたり、「なぜそこまで言われなければいけないの?」と疑問を持ったりしたら、それは呪いの言葉といえます。「家族は自分のためを思って言っている」などと思わずに、「相手は現在の力関係を維持しようとして言っているのだな」と認識して、対抗策を考えましょう。

何より重要なのは、「思考停止状態」にならないことです。呪いの言葉の多くは弱い者を抑えつけるために発せられるので、動揺したり、言いなりになったりしては、相手の思うつぼ。「言い返してもムダだから」と諦めていては何も解決しませんし、状況が悪化していくだけです。

批評家の内田樹さんが、答えの出ない問いを投げられたときの対抗策として、「問いの次数を一つ繰り上げる」と言っています。問題に対する見方を一段階上げて、俯瞰するようにするということです。具体的な対処法については、これから詳しく説明しましょう。