私が母から言われて記憶に残っているのは、「あんたは世間を知らん。世間は怖いもの」という言葉でした。彼女自身が「世間」の圧力をひしひしと感じていたからこそ、出た言葉だったのだと思います。

その一方で、「男に負けるな」ともよく言われました。戦争中に生まれた母の世代の女性は、上級学校に進めず、思い描いた人生を送れなかった人が少なくありません。「自分は世間の荒波の中で頑張ってきた。だからわが子にも頑張ってほしい」という思いを娘に託していたのでしょう。

母の言葉は、「呪いの言葉」として私を縛ったわけではありません。でも、自分が苦労してきた経験や心残りなどがあったりすると、忠告心ゆえに相手に同じことを何度も言ってしまい、意図せず「呪いの言葉」と化してしまうこともあるのです。

面白いもので、繰り返される言葉は、その概念や思想を世間に定着させる力を持っています。たとえば、日本に「ハラスメント」という言葉が定着して、その後に社会の理解が追いついたように、言葉は私たちが考えているよりも、はるかに強い影響力を持っているのです。その力に惑わされないためにも、「おかしい」と思う言葉に対して敏感になり、自分にとって大切な言葉を持つようにしましょう。

たとえば、自分を呪縛から解き放ってくれるような言葉です。私は「湧き水の言葉」と呼んでいるのですが、「私は、自分の生きたいように生きる」「私は自由だったんだ」など……。「私」が主語になった、自分自身を支える言葉を見つけるために、多くの人と会話する、本を読む、映画を観るなどして、良質な言葉に触れるといいですね。呪いをはね返す力を持った、あなただけの言葉をぜひ探して手に入れてください。

●呪いの言葉に囚われないための4つの方法​

(1) 置かれた状況を俯瞰して見る
(2)「返しの言葉」の種類を増やす
(3) 自分を認める「灯火の言葉」を集める
(4) 呪縛を解く「湧き水の言葉」を探す