「お夕飯の時がとっても寂しいです。いつも隣にいた人が、いないから……」(撮影:岡本隆史)
日本を代表する映画監督の一人である篠田正浩さんが亡くなって半年が経つ。妻であり、篠田作品に欠かせない主演女優でもあった岩下志麻さんが夫との日々を振り返る。(聞き手:関容子 撮影:岡本隆史)

94歳の誕生日を一緒に祝って

――日本映画界を牽引した篠田正浩監督が逝去したのは2025年3月25日。永年連れ添った女優の岩下志麻さんは未だ傷心の中にいる。でも、今日はあえて楽しかった思い出を語り、改めてその幸せを噛みしめていただきたい。

まだお骨は篠田の書斎の机の上に置いてあるんですよ。今日あったことを報告して、「また来るわね」「明日も頑張るわね」と、いつも話しかけてます。お夕飯の時がとっても寂しいです。いつも隣にいた人が、いないから……。

ここ2年くらい老化が進みましたが、今年1月に転倒して骨折してからは急に体力が落ちましたね。それでも3月9日のお誕生日には、娘一家と集まってお祝いできたんですよ。その時、「94歳だなんて……こんなに生きるとは思わなかった」と言って、初めて私と行ったカンヌ国際映画祭のことや、楽しかったことをいろいろ話したりしてました。

そのあと肺炎になって入院するんですけれど、1週間くらいで治るからと看護師さんがおっしゃったので、「よくなったらすぐ家に帰りましょうね」って言ったら「うん」って返事をしてくれて。ところが翌朝5時に、突然亡くなってしまったんです。

病院からの知らせは、早朝。娘のところに電話がありました。その後、私は何も手につかず泣いてばかりで……。葬儀のことからお別れ会のことなど、全部娘がしてくれて本当に助かりました。