
三
ハルたちはさっそく日曜日の早朝に校長室に呼びだされた。
老修道女といった雰囲気の校長が眉間に皺を寄せて三人にいいわたしたのは、許しがでるまでは、お手洗いにいくほか一切寮の部屋からでてはいけないという厳しい謹慎処分だった。寮監の淑惠が、だからいったのに、と呆れた顔をして、朝晩の二食を運んできた。
一週間後に謹慎が解かれると、ようやくハルの女学生生活が本格的にはじまった。
朝は六時に起き、着替えて礼拝にでかけ、順番がまわってきたらマタイによる福音書を朗読し、讃美歌を歌う。とりたてて厳しいわけでもない国語や修身の授業を終えて、夕方にはスープとパンという質素な夕食をとり、再びチャペルで讃美歌を歌い、夜は朝子や紅と部屋で雑談をする。
二週間が過ぎるころには、記事を書くという本来の使命を忘れそうになるくらい、学園生活を満喫していることにハルは気がついた。
――あたしまた十代に戻っちゃったんじゃないかしら。
ふと、そうつぶやくと、気恥ずかしいようなうれしいような気持ちだった。ハルには、離れてきた内地のことも母や妹のことも考える必要のないこの場所は、天国のようですらあった。
ただひとつ、悩みの種は、ハルが予想していた以上に女学生たちにもてたことだ。
かつてハルが通った女学校でも「S」(エス)と呼ばれる生徒同士の交際関係は、ほとんど公然の秘密といってよかったし、実際にハルも数名の後輩から「お姉さまになってほしい」という告白にも似た手紙をもらったことがあった。しかし、それはほとんど例外的といっていいできごとで、人気があるのはつねに上品な見目麗しい令嬢たちで、ハル自身は恋愛にまったくといっていいほど関心がなかった。
けれど、ここ恩寵高女では、どこか大人びた雰囲気の(それはあたり前だが)長身の編入生ハルの噂は、あっというまに学校中を駆けまわった。
毎日のように美しい字で書かれたラブレターがハルの教室の机に舞いこみ、チャペルからの帰りにはハルを囲む下級生の輪ができた。どこで告白されるかわからないのでおちおち夜のお手洗いにもいけないような有様だった。
つぶらな瞳で交際を迫ってくる、妹よりも年下の生徒たちからの申し出を断るたびに、ハルの心は痛んだ。
