イラスト:遠藤舞
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「言論の行く末」。アメリカ留学時代、深夜トーク番組に国民の成熟した精神と文化を感じたというスーさん。ところが、今回のカーク氏暗殺事件では――。
チャーリー・カークの暗殺
9月10日、トランプ支持者の保守論客チャーリー・カークがアメリカの大学で学生との討論中に暗殺され、全米に激震が走った。首元を銃で撃たれる瞬間の動画は瞬く間にSNSで広まり、命の灯など一発の銃弾であっという間に消し去られてしまうのを私は目の当たりにした。
犯人が捕まる前にもかかわらず、トランプ大統領は左派の仕業だと怒った。カークの発言は過激で、合意のない性交渉や強姦による妊娠であっても中絶は常に間違いだと批判し、性的少数者の権利を否定し、銃規制に反対し、人種差別と受け取れる発言もお構いなしだった。にもかかわらず若者からの支持は絶大で、トランプ政権の復活に大きな影響を与えたと言われる。
9月17日、アメリカの人気深夜トーク番組『ジミー・キンメル・ライブ!』が、放送局であるABCから無期限の放送停止を言い渡された。事実上、番組ホストであるジミー・キンメルの粛清だ。
アメリカの地上波テレビ局にはいくつかの深夜トーク番組があり、たいていコメディアンがホストを務めている。政治風刺を含む時事ネタフリートーク、ゲストトーク、音楽ライブなどで構成され、毎晩放送されている番組も少なくない。つまり、アメリカ人の生活に根付いている。
大学時代にアメリカ留学し、深夜トーク番組に出会った。私の英語力や文化的背景に対する理解力では把握できないネタが多かったものの、政治や権力や人気者に対する皮肉のこもった、しかし一定の品位は保たれたトークに痺れた。それは知性の塊とも言えるもので、これを理解し共有し楽しめる、アメリカの成熟した精神と文化に憧れたものだった。
