言論の行く末
キンメルの番組が突然放送中止になったのは、カーク暗殺についての彼のフリートーク部分が不適切であると、アメリカの放送局に絶大な影響力を持つ連邦通信委員会(FCC)のカー委員長が批判したのが発端だ。
キンメルはカークの死を茶化したわけではない。捕まる前から犯人が左派だと決めつけ、その証拠探しに躍起になったMAGA勢を茶化しただけだ。しかし、逮捕された容疑者の家族は共和党支持者で、容疑者が左派である証拠はなかなか出てこなかった。
キンメルの発言をどう取るかは人それぞれだが、アメリカには言論の自由を保障するアメリカ合衆国憲法修正第1条がある。よって、カークの過激な発言が法的に罰せられることはなかったのだ。キンメルの発言も深夜トーク番組の域を出たとは、私は思わなかった。しかし、事態は以前とは大きく変わってしまった。
大統領が気に入らない人物を名指しで批判するのには悪い意味で慣れっこになっていたが、トランプ大統領から任命されたカー委員長が、権力を笠に着て放送中止を仄めかし、数時間後にABCの親会社であるディズニーが自主的に番組の無期限休止を発表したのには大いにショックを受けた。追い打ちをかけるように、ヴァンス副大統領は、カークの死を称賛するような者が職場にいたら雇い主に報告するように、と発言した。そして現実に、カークの死を称賛したとは言えないレベルの発言をした教授やジャーナリストが解雇された。悪夢である。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。






