
イラスト:遠藤舞
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「真っ直ぐに」。プロレス観戦が趣味になり、最近会場に足を運ぶ頻度がますます上がっているというスーさん。会場に足しげく通うようになるうち、ある楽しみも増えたそうで――。
プロレス観戦の頻度が増え
プロレス観戦が趣味になってからおよそ5年。初期は月に1~2回程度だったが、いまでは5~6回、多い時は10回も会場に足を運ぶようになった。
頻度が上がったのは、観たい団体が増えたから。特定のインディー団体の興行を観るだけでは飽き足らず、あちこちに顔を出すうちにこうなった。演劇にたとえるなら、贔屓にしている劇団Aの公演にゲスト出演していた劇団B所属の俳優が気になり、劇団Bを観に行くようになったら劇団Cの俳優に衝撃を受け劇団Cを……といったところ。好きなバンドが出るフェスに行ったらほかのグループも好きになって週に何度もライブハウスに足を運ぶようになったり、お笑いイベントに行ったら推しの漫才コンビ以外のお笑いトリオにハマって劇場へ観に行くようになったりするのと同じ。芋づる式だ。
競技スポーツや相撲と異なり、プロレスには特定の開催シーズンがない。よってシーズンオフもない。東京に住んでいる限り、一年中ほとんど毎日どこかで興行があるため、あとは自制心との闘いになる。私が石油王だったら仕事なんか辞めちゃって、すべての大会に足を運ぶようになるだろう。
会場に足しげく通うようになるうち、顔見知りもできた。地方の遠征先でも同じ人たちに会う。いつしか自然に会話を交わすようになり、いまでは顔なじみといったところ。楽しみが増えた。
団体を丸ごと応援している「箱推し」の人もいれば、特定の選手を応援している人もいる。団体Aで知り合った人を団体Bの興行で見かけ、立ち話に花が咲くこともある。石油王はひとりもおらず、誰もが働きながらプロレス観戦を趣味にしている。