イラスト:遠藤舞
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「一本の光明」。鼻下に数本生えている髭を長年毛抜きで抜いてきたというスーさん。とうとう、顔面脱毛でその髭とオサラバしたところ――。

長年の付き合いに

誰の女房でもない私の鼻下には髭が生えている。伸びるとかなり目立つ。鼻下全面に生えているわけではない。両口角の上あたりに、黒くてしっかりした毛が数本ずつ。うぶ毛とは言えない。私が猫だったらちょうどよかったのだが、あいにく人間なので、長年毛抜きで抜いていた。20代後半から目立ってきた記憶がある。

無人島に持っていくものを1つ挙げろと言われても毛抜きは選ばないが、5つ選べと言われたら毛抜きが入る可能性は高い。それくらい、私にとって髭抜きは日常作業だった。

ムダ毛。大学生になると、腋や腕や脚の毛を永久脱毛する友人がチラホラ出てきた。当時はまだ痛みが強く、女友達のひとりは毛穴に針を刺し電気を流して毛根を死滅させるニードル脱毛の施術で、涙が止まらなかったと言っていた。

私はズボラなので、「痛いのに何度も通う」が選択できないまま中年になった。のらりくらりとシェイバーで処理できる範囲で対応していたら、腋や脚の毛も徐々に薄くなった。これ幸いとケアの頻度を下げたが、数本の髭だけは断固として口元に生え続けた。抜き忘れに怯えながら、死ぬまで自己処理する運命だと腹を括っていた。

ある日のこと。ここ数年お世話になっている美容クリニックからお知らせが届いた。顔面脱毛のキャンペーンを行うらしい。へえ、顔面のうぶ毛もレーザーで処理する時代なのね。興味本位で話を聞いてみると、うぶ毛以外の濃い毛にも効くという。価格もそれほど高くなかったので、ものは試しと軽い気持ちで契約した。

施術当日。パチパチと音を立て、少し焦げたような臭いを放ちながら、私の口元から髭が除去されていった。痛みはあったが予想していたほどではなく、イテテと体をよじらせているうちに終わった。これを何度か繰り返せば、髭と永遠にオサラバできるらしい。