(写真提供:Photo AC)
中学受験指導スタジオキャンパス代表の矢野耕平さんは、衣食住は満ち足りていても、親が子どもに関心を持てない状態のことを「ネオ・ネグレクト(新しい育児放棄)」と定義し、「富裕層といわれる家庭であっても見られる現象である」と語ります。そこで今回は、矢野さんの著書『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』から抜粋し、実際にあったネオ・ネグレクトの事例をご紹介します。

進学塾で感じたネオ・ネグレクト

わたしが中学受験に関わる親と接していて困るのは、わが子を直視していない親、「アウトソーシング」が「丸投げ」と同義になってしまっている親への対応だ。つまり、ネオ・ネグレクトに手を染めてしまっている状態の親に対して、どう導いていくべきか苦慮してしまうのである。

わたしの経営する中学受験塾に子を通わせる保護者の事例は紹介できないが、わたしの塾に問い合わせてきた親(実際に通ってはいないご家庭)について、わたしの見聞きした事例を四つほど紹介したい。

一つ目はこんな話だ。

わたしの塾(スタジオキャンパス自由が丘校・三田校)の特色の一つとして「自習室」を完備していることが挙げられる。塾の授業のない日であっても、月曜日〜土曜日に常時開放し、そこで自学自習ができるようにしている。

近年、共働きのご家庭が急増していて、親がわが子の学習に付き添いたくても、それが叶わない……それならば、わが子が塾の自習室を活用してもらい、質問があればその都度チューターや講師で対応しようと考えたのである。

また、親子の距離が近すぎると、親がわが子の学習面にタッチしようとすることで、軋轢が生じてしまうケースがよく見られる。「自習室」はこういう事態を回避するための仕掛けでもある。

比較的最近の話だが、わたしの塾に問い合わせてきた親がいた。どうしてこの塾が気になったのかという点を尋ねると、「自習室がある塾だから……」と繰り返すばかり。塾の教材やカリキュラム、授業日程などの質問はまったくしてこない。

その親と話しているうちに気づいたのは、子の家庭学習を塾に託したい、換言すれば、丸投げしたい……それによって、親としてその負担をなくしたいという要望が先行していることだ。乱暴に言えば、わが子の今後の成績がどうなるのかは大した問題ではない。とにかくわが子を塾に預けっ放しにしたいということである。