菊池雄星
菊池雄星選手
MLB2026年シーズンが日本時間3月26日に開幕します。ロサンゼルス・エンゼルスに所属しMLBで活躍を続ける菊池雄星選手は、世界最高峰の舞台で戦うために、どのようなことを考え実践してきたのでしょうか。今回は、菊地選手がMLBでの苦闘を支える日々の習慣を綴ったエッセイ『こうやって、僕は戦い続けてきた。 「理想の自分」に近づくための77の習慣』より一部引用、再編集してお届けします。

心のリミットを外す。

最近、「なぜ岩手県から3人もメジャーリーガーが出ているんですか?」と質問されることが増えました。

説明不要の世界のスーパースター、大谷翔平選手。日本で完全試合を達成し、アメリカでも球界ナンバーワンの有望株として将来を嘱望される佐々木朗希選手。岩手県という、お世辞にも「中央球界」とは言えない場所から3人のメジャーリーガーが誕生したことで、「その秘密は何なのか」と聞かれる機会が多くなりました。

もちろん、僕は彼らのような100マイル(約160キロ)を超える速球を投げられるわけでも、190センチを超える身長や長い手足を持っているわけでもありません。野球選手としての資質や能力は、到底、彼らの足元にも及びません。しかし、曲がりなりにも7年間メジャーのローテーションを守ってきた立場から、僕なりの仮説を少しお話ししてみたいと思います。

一番の要因は、「僕もできる」とみんなが思える、そんな「連鎖」が起きているからだと僕は考えています。

人間は、遠くの知らない人がどれだけすごい成果を収めても、どこか他人事のように感じてしまいます。しかし、自分の身近な人が成果を出すと、「あの人ができるなら、僕もできるかもしれない」という気持ちになりやすいと言われています。心理学の言葉で、「自分にもできるという感覚」のことを「自己効力感」と呼びます。

世界陸上のメダリストである為末大さんは以前、「ウサイン・ボルトの出現によって、欧米の選手や、彼の出身地であるジャマイカの選手たちの記録は急激に伸びた。しかし、アジア人の記録にはほとんど影響しなかった。アジア人の記録が伸びるのは、同じアジア人が新記録を出したときである」というような話をしていました。

アジア人からすると、「彼はジャマイカ人だからできたんだ」という心理が働き、自分事として捉えにくい。しかし、同じアジア人が記録を更新すると、「僕もできる」という心理が強く働く。このように、他人の行動や物語を通して「あの人もできたんだから、僕もできるかもしれない」と感じる疑似的な体験のことを心理学で「代理体験」と言います。

岩手から3人のメジャーリーガーが誕生した背景には、この「代理体験」の連鎖があったのだと、僕は思います。