内田樹さん(左)と内田るんさん(右)親子
〈発売中の『婦人公論』6月23日号から配信!〉小学1年生のときに両親が離婚することになり、父・内田樹さんについて行くことを決心した娘のるんさん。るんさんが高校を卒業するまで、父娘2人で暮らしました。当時を振り返りやり取りした往復書簡が、このたび本に。今だから言えることとは──(構成=古川美穂 撮影=本社編集部)

かみ合わないからこそ対話は楽しくなる

 今回の「親子の往復書簡」、こんなに長くやり取りをするのは初めてだったね。

るん うん。一昨年のパリ旅行に連れて行ってもらったときに、お父さんから提案されたのを覚えている。でもよく私との往復書簡をやろうと思ったよね? いつも仕事で忙しくて大変なのに。

 るんちゃんも同じだと思うけれど、普段ブログやSNSではそれぞれの場所で自分のキャラクターを設定して、不特定多数の人へ向けて発信するでしょう。今回はそういうバーチャルなキャラクターではなく、リアルな「親キャラ」で、娘という特定の相手に対して語ってみたいと思ったんです。それに何といっても、生きているうちに謝っておこうと思って。(笑)

るん 旅行前は私たち、かなり距離ができていたよね。お父さんはいつも忙しく飛び回っているから、ツイッターを見ないと近況がわからない。「ある日突然、お父さんが外国で客死したなんてネット経由で知らされたらどうしよう」とか思っていた。そんなときに、私がフランス語を習い始めたのをきっかけに旅行の話が出て。

 パリで多田宏先生が合気道の講習会をされるので、それに行くから一緒に行こうと。

るん 私とお父さんは昔から微妙にかみ合わないよね。久しぶりに会った瞬間はお互い「わーい」ってなるけど、そのテンションは2時間も続かない。だから久々に2人で旅行するのは少し不安だったけど、とても楽しかった。改めて、パリ旅行に連れて行ってくれてありがとうございました。

 どういたしまして。でも僕らの往復書簡も、ほんとにかみ合っていないよね。かみ合っていないというのは、ラリーをしていないということなんだけど。

るん そうだね。

本対談が掲載されている『婦人公論』6月23日号

 だけどそれで良かったんだと思う。対面でコミュニケーションが一見うまくいっているときって、ポンポンと会話が続いて気分いいけど、そういうラリーって、実は脊髄反射的なやり取りで、あまり中身がない。コートの中で打ち合っている限り、そこからなかなか新たなものは生まれない。定型から自由になって深い対話に入るには、往復書簡という形式は良かったと思う。ボールが来てから返すまでにたっぷり時間があるから。

るん 確かに、往復書簡だとじっくり考えながら打ち返せるから、そこがとても面白かった。これは親子でも、恋人や友人同士でも、「書くこと」が嫌いじゃない人にはお勧めだと思う。

 一回温度が下がるというかね。思考をゆっくり練ることができる。今の若い人たちって、もう手紙のやり取りとか交換日記なんてしなくなったでしょう。

るん うん。だいたいLINEやツイッターでのやり取りで済ませてしまうから。

 定型的な短文を高速でやり取りしていると「ラリーが続いている感」がする。それも一つのコミュニケーションだけれど、それだけがコミュニケーションじゃない。一つのトピックを2人でじっくりやり取りするというコミュニケーションもあるんだけどね。