素晴らしい景色の場所はと聞かれ、日本とイタリアの見どころてんこ盛りの国土に思いを馳せるマリさん。それとは別に、行ったことがないのに、見せられた写真だけで感動した国もあるそうで――(文・写真=ヤマザキマリ)

美しい景色

今まで訪ねたなかで、ここは素晴らしい景色だと感じた場所はどこですか、などと聞かれると迷ってしまうが、この時季、東京の仕事場のベランダから、民家の屋根の間に覗く萌葱色の芽を吹き出した木々の向こうに、山頂部に雪を被った富士山が見えたりすると、なんという完成度の高い景観なのだろう、としみじみ感心させられる。

夕暮れ時の、赤い空をバックに薄い紫色のシルエットとなって浮き立つ富士山も、これまた息を呑むほど素晴らしい。日本の場合はやはり、狭い画角の中に詰め込まれている情報量の多さが抜きん出ているように思う。

民家、木々や花、空、山、雪、雲。そこに人間や動物も加わればもはや浮世絵だ。葛飾北斎の描く日本の景色がすごいのは、表現者である北斎が感受した、目の前に広がるありのままの光景が、我々日本人に紛れもない日本の原風景として、率直に伝わってくるからだろう。

日本の国土は狭い地形の中にたくさんの表情を持っている。針葉樹林や流氷に海が覆われる北海道から、鳥取など日本海側に見られる砂丘、スイスや北イタリアの山々を彷彿させる壮麗な日本アルプスに、豊かな植生に満ちた日本全域の山岳地帯、阿蘇山や桜島のようなダイナミックな火山に、南西諸島の海を彩る碧(あお)と緑のグラデーション。

そしてそこに息づく多様な植物に生物。まるで地球のおいしいところをすべて集めてできたかのような贅沢さだ。