酒井 『82年生まれ、キム・ジヨン』(以下、『キム・ジヨン』)を読み、韓国女性の置かれた状況が、日本と似ているなと思いました。違うところもあるけれど、欧米に比べると「わかる、わかる」という事象が多い。会社の飲み会で偉い人の隣に無理やり座らされるセクハラがあったり、一つひとつのエピソードが日本でもよくあることなんですよね。
ジェーン・スー(以下、スー) 私も日本の話かと思ったくらい。例えば主人公が入っていた大学の登山サークルでのエピソード。「サークルの花」と女子学生はおだてられるけど、会長や副会長には決してなれないとか。若い頃、私たちにもこういうことあったな、と。でもそれが差別だとは気がついていなかったかも。
すんみ 差別って、受ける側も気づいていないことが意外と多い。この小説に書かれているのは、誰もが経験するようなテンプレート的な差別で、これを読んで「私たちが受けてきたことは差別だったんだ」と気づくところから始まるのだと思います。
酒井 知人の韓国人男性が、若い女の子たちからこぞってこの本を薦められると言っていました。韓国では男性にも読まれているのですか?
すんみ はい。初めは、ほかの人も同じような差別的体験をしているのかを知りたいという気持ちから女性同士が薦め合っていました。それから兄弟や恋人にも読んでもらいたいと周りの男性に薦める、という流れがあったと思います。韓国では、この本の出版を機に、女性差別をなくそうと通称「キム・ジヨン法案」が立案されるなど、政治を巻き込む社会現象となっています。
酒井 そんなに大きなムーブメントを起こしているのですね。小説には家庭内差別も描かれていましたが、姉と弟とでは、弟のほうが大切に扱われるといった儒教色は、日本より強いなと思いました。
スー 日本でもまだありますよね。男兄弟が優先されたり、というのは。
酒井 90年代の初めの韓国では、胎児が女の子だとわかると堕胎する傾向があった、ということには驚きました。3番目以降の子どもの出生性比は男児が女児の2倍以上になる、とか。
すんみ 今は女児だから堕ろそうという人はいません。むしろ、自分の気持ちをわかってくれる女の子が欲しいという母親が多いですね。当時は戸主制度があり、家を継ぐ男児を産むことへのプレッシャーがかなり強かったのだと思います。