©Jean-Claude Moireau

現在も係争中の事件をもとに描く

聖職者である神父が少年に手を出す。敬うべき存在の者から汚らわしいことをされた少年は、傷ついた心を抱えたまま、あるいはその記憶を封印して、成長する。

フランスを代表する名匠フランソワ・オゾン監督が、初めて実話に基づく物語に挑んだ。題材は、ローマ・カトリック教会の神父による児童への性的虐待、通称「プレナ神父事件」。本作がフランスで公開された2019年2月当時から現在まで、事件の裁判は係争中だ。

2014年、フランス第2の都市リヨンに、妻と5人の子と暮らす40歳のアレクサンドル。ある日、かつてボーイスカウトで一緒だった知人男性に「きみもプレナ神父に触られた?」と聞かれ、少年時代に性的虐待を受けた記憶が蘇る。その神父が今なお子どもたちに聖書を教えていることを知って憤り、行動に出る。だが、最初に相談したリヨンの枢機卿も、その右腕的な存在の心理カウンセラーである老女も、アレクサンドルの話に耳を傾けて同情を示すものの、動きは鈍い。彼はプレナ神父本人とも対面する。今や年老いた神父はかつての虐待をあっさり認めるも、許しを乞うことはせず、「子どもに惹かれることは自分にとっても苦痛だった」とさえ言う。

神父による児童への性的虐待は世界各国で問題になっていて、アメリカでは『フロム・イーブル バチカンを震撼させた悪魔の神父』(2006年)というドキュメンタリー映画がつくられたし、日本でも告発事例がある。

アレクサンドルは、新たな悲劇を食い止めるため、プレナ神父を告訴。ほかの被害者たちの存在も明るみになり、被害者による「沈黙を破る」会が発足する。

アレクサンドル役のメルヴィル・プポーは、本作でオゾン作品出演3度目。テレビ局の顧問を務めるエリートにして良き家庭人である一方で、他人に対して見えない壁をつくってしまうアレクサンドルの複雑な内面を、端正な佇まいで好演する。

「沈黙を破る」会の中心的存在として活躍するのはフランソワ(ドゥニ・メノーシェ)。彼の両親は、息子が虐待されたことに対して教会にただちに抗議した。だがその陰でフランソワの兄は孤独な子ども時代を強いられた。主要な登場人物3人のうちで最も若いのが、エマニュエル(スワン・アルロー)だ。人生がうまくいかないのは知能指数が高すぎるからだと自分では思っている。そんな彼も、子ども時代の虐待について語り、同じ思いを他人と共有することで、少しずつ気持ちを整理し精神的に落ち着いていくように見受けられる。

沈黙を破って声を上げることが再生への道だと、オゾン監督は終始一貫して抑制されたトーンで訴える。主演3人の名演がそれを力強くサポートして、見ごたえあり。

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グレース・オブ・ゴッド 告発の時

監督・脚本/フランソワ・オゾン
出演/メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、 エリック・カラヴァカ、フランソワ・マルトゥーレ、ベルナール・ヴェルレー、 ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・ヴァンサン、マルティーヌ・エレル
上映時間/2時間17分 フランス映画
■7月17日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

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大ヒット作の脚本家が監督デビュー

1940年代の朝鮮半島。失われていく朝鮮語を守るために、各地の方言などあらゆる言葉を集めて辞書をつくろうとしていた集団がいた。

彼らの苦闘を時にコミカルな味つけで活写する。大ヒット作『タクシー運転手約束は海を越えて』(2017年)の脚本を手掛けたオム・ユナの監督デビュー作。

シネマート新宿ほかにて全国順次公開中

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マルモイ ことばあつめ

出演:ユ・ヘジン、ユン・ゲサン

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© D.R. ESTEBAN CORP S.A. DE C.V. , MÉXICO 2018

セレブ妻の崩壊

1982年、メキシコシティの豪邸に夫と子どもたちと暮らし、美容と着飾ることに余念がないソフィア。だが、メキシコを歴史的な経済危機が襲い、彼女の世界は崩壊していく。

無力だがしたたかなソフィアの挙動に、ある種の女性の本質が見えて、大いに興味をかきたてられる。

YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中

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グッド・ワイフ

監督・脚本:アレハンドラ・マルケス・アベヤ

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