60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。

 

 

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 疾風怒濤(しっぷうどとう)という言葉がある。

 霧と出会って結婚して、別れて、霧が死んで――。それだけのことがたった一年半ほどの間に起こった。

 その一年間のせいで私はずっと後悔し続けている。心の安まるときなどない。朝焼けを美しいと感じても、にこやかに挨拶をしても、風呂でほっと一息ついても、それはうわべだけだ。感じているふりをしているだけだ。心と身体の芯は死んでいる。

「ごめんなさい、霧さん」

 半纏に向かって頭を下げた。

「私は卑怯です。自分の後悔を霧さんに知ってもらって、その重荷を減らしたいと思ってる。霧さんが知らなくてもいいことなのに」

 真夜中の独り言は怖ろしい。自分の口から出た言葉が耳から入ってくると、まるで別人の声に聞こえる。肩越しに声がまとわりついて、まるで私に取り憑(つ)いた悪魔だか幽霊だかが喋っているように感じた。

 水を一口飲もうとしたが、手が震えてこぼしてしまった。パジャマのズボンが濡れて太股に貼り付く。

 この手の震えは動揺か、加齢か。それとも両方か。

 取り乱す六十女など見苦しいだけだ。そして、その見苦しさを受け入れてくれたのは霧だけだった。