「万博? いいですね。私も一度くらいは行ってみたいと思ってたんです」
木綿子の声がぱっと明るくなった。
「よかった。じゃあ、早速、日を決めて予約しよう」
ほっとして口調が元に戻った。自分でも単純だな、と思う。
「霧さん、もしかしたらちょっと身構えてませんでしたか?」
「ああいう大きなイベントは好みが分かれるから。君がどう思うか、ちょっと心配してたんだ」
緊張が見抜かれていたかと思うと、恥ずかしいようで、やっぱり嬉しい。
「文句を言ってる人も多いですね。でも、私、七十年の万博に行けなかったことがちょっと悔しくて。今度こそ行きたいなと思ってたんです」
「俺は連れて行ってもらったんだけど、まだ小さかったから憶えてないな」
「連れて行ってもらえただけマシですよ。うちは父があの手のお祭り騒ぎが大嫌いで」
「ああ、なるほど。じゃあ、今度の万博も?」
「テレビで万博のニュースが流れるたびに文句を言ってます。ミャクミャクが大嫌いなようで。あんなに可愛いのに」
「木綿子さんはミャクミャクが好きなのか。よかった。じゃあ、万博に行ってミャクミャクくじを引こう」
「ミャクミャクくじ? 楽しそうですね。ちょっと父のヘルパーさんと相談して日程を決めていいですか」
ふいに木綿子の声に疲れが混ざった。いや、木綿子の声は最初から疲れていた。明るく振る舞って誤魔化していただけだ。
「もちろん。でも、無理はしないでほしい。君が大変なのはわかってるから」
「ええ。もうほんとに大変です。だからこそ行きたいんです」
木綿子が弱音を吐いてくれたことで、俺は救われたような気がした。
