「老い」の過程で生じる肉体的・心理的変化が、人の行動にどのような影響を与えるのか──。老年行動学の専門家・佐野眞一さんが教えます(構成=村瀬素子 イラスト=岡田里)
子どもの立場からは理解できない言動
「聞き上手だった母が、自分ばかりしゃべって私の話を聞かない」「穏やかだった父が頑固になり、キレやすくなった」……。
歳をとった親の言葉や行動は、子どもの立場からは理解できないことが多々あります。若かった頃の親のイメージとは変わってしまい、戸惑ったり怒りを覚えたりすることもあるでしょう。
私は長年、高齢者の心理や行動の謎を解明する「老年行動学」を研究していますが、高齢者の側からすれば、その不可解な言動に至る理由がちゃんとあるのです。
人は歳をとるとどう変わるのか──。目が悪くなる、耳が遠くなる、足腰が弱くなる、といった身体的な衰えは比較的わかりやすいですが、心の状態も老化します。
意欲や根気がなくなったり、周りに気を遣わなくなったり。心の老いは脳の機能の低下によっても起こるし、子どもが巣立って親の役目を終える、仕事を定年退職する、といった社会的な関係性の変化とも無縁ではありません。こうした要素が絡み合って、時に謎の言動として表面に出てくるのです。