学生時代、亡命生活を送っていたイラン人の友人に聞いた、両親にプレゼントを贈ろうとしたら断られたという話を不意に思い出したヤマザキさん。そのきっかけとなった、今の日本の出来事、そして断られた理由は……(文・写真=ヤマザキマリ)
イランの宗教《道徳》警察
イタリアでの学生時代、宗教革命に反発したかどで亡命生活を送っていたイラン人の友人がいた。その彼のもとへ、5年間会っていなかった故郷の両親が訪ねてきた時のことだ。
父親が着ている裾のすり切れた古いコートを哀れに思った息子が、街中へ散歩に出た際に、洋装店のウィンドウに飾ってあったごく普通のコートを自分からのプレゼントだと父親に勧めたところ、「そんな新しいコートを着て外を歩いたら、宗教警察がやってきて容赦なくはぎ取っていくだろう」という驚きの答えが戻ってきた。イランへの帰国が迫ってきたころ、新しいショールを息子からプレゼントされた母親も、同じように宗教警察を恐れて受け取れないと悲しそうに断ったという。
あれから35年が経過しているが、イランでは相変わらず宗教警察が戒律を守らない市民を見つけ出そうと目を光らせ続けている。このイスラム圏における宗教警察は《道徳警察》と呼ばれている。
反米路線の社会体制にあるイランでは、欧米の影響を受けた服装や、女性の派手な装いや化粧、そして未婚の男女間の交際への取り締まりが強化されて、このような警察が組織された。取り締まりを受けた人は、見せしめとして暴力を振るわれる場合もあるという。妬みを持った隣人が宗教警察に告げ口をしたことで裁判所送りになった人もいるということだ。