個性の強さから学校で問題児扱いされるような子どもたちを集め、彼らに自由な発想と学びの場を提供することを目指した教育が、東京大学にて行われています。ディレクターを務める中邑賢龍教授は、「子育てでは褒めるのが大事、叱るのは良くない」という空気が蔓延していることに危機意識を抱いているそうで――

※本稿は、中邑賢龍『どの子も違う――才能を伸ばす子育て 潰す子育て』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

第一回●『みんなと違う子だから発達障害』という考え方はなぜ危険なのか

子どもにかまう時間を失った大人たち

子どもたちをどう育てたらいいのかと思い悩み、あれこれと手を尽くそうとする、ご両親の気持ちは本当によく分かります。でも、それがまた子どもとの間に“壁”を生み出すことにつながってしまうこともあります。

かつては、子どもの相手をする親以外の大人が、今より多くいたように思います。

勝手に畑に入って遊んでいれば「こら!」と本気で怒る大人。「おい、そこの坊主、ちょっと手伝え!」と声をかけては「ありがとよ!」とお駄賃をくれる大人。機械を修理しているところを眺めていると、ニコニコして「ここを触ってみな」と操作させてくれる大人。

地域の大人の皆が声をかけ、少しずつ子どもをかまってくれるような時代がありました。そしてそれによって、親が家庭でできないことを地域社会が担っていました。

しかし、そこから急激な社会の変化が起こり、人の意識も社会の制度もついていけなくなっているのが現在です。