イラスト:網中いづる
小さい頃から持っている自分の「ある力」。それは、身近な人の「近い死期」を察知することだった。親には外で話すなと戒められてきたが……。ありえない、でも確かに感じる。突然わが身に起こった奇怪な現象。そこに込められたメッセージとは。角野さん(46歳・仮名)は「もうすぐ死ぬ人の臭い」がわかるそうで――

大好きな曽祖母の臭いが変わった

《もうすぐ死ぬ人の臭い》がわかると言うと、大半の人が「ウソー? 気のせいだよ」と一笑に付す。私が小さい頃、同じことを母に言うと、「いい? そんなことは決して人前で言うたらいかん。変な子って思われるよ」と叱られた。

最初は曽祖母の死だった。田舎にある実家は、土地だけは広大で、同じ敷地内に曽祖母の家があった。若くして夫を亡くし、女手一つで子どもを育て、親戚中から「夫は死んだのだから出て行け」と言われながら、「この土地は孫の代まで残す」と踏ん張り続けた曽祖母。それがたたって腰を痛め、晩年は寝たきりに。

そんな曽祖母を私は「寝んねのばあちゃん」と慕い、小学校の帰りに「ばあちゃん、今日給食で出たゼリーだよ」と、スプーンで食べさせたりしていた。すると決まって、がま口から500円玉を出してくれる。原価ゼロ円のゼリーから500円を手にした私は、スキップして近所の駄菓子屋にお菓子を買いに行くのだった。

そんなある日、寝んねのばあちゃんの臭いが変わった。寝たきりだったのでオムツはしていたが、家族が小まめに替えていたので臭うことはない。しかし、その日は部屋の襖を開けた時から違った。「何の臭いだろう?」と思いながら、寝ている曽祖母の耳元で「寝んねのばあちゃん!」と囁く。すると曽祖母はパッと目を開け、「帰ったね」と嬉しそうに言った。

……錆臭い。臭ってきたのは錆臭さだった。家に戻って母に「寝んねのばあちゃん、錆臭い」と言うと、「そんなことは決して言うたらいかん」と怒られたのを覚えている。