大事な友人が元気をなくして…
その後、私は結婚して専業主婦になった。当時、不妊治療のために頻繁に仕事を抜けて通院していたら、新しい上司にそのことを叱責されたため、辞めることになったのだ。それからは家で単発の仕事をしながら通院した。
その間に夫は糖尿病を発症し、EDに。「この精子の運動率では人工授精は難しい」と、医師からは体外受精を勧められた。自信をなくした夫は毎晩のように飲み歩き、夜中まで帰宅しない日が続いた。
当然、夫婦ゲンカが絶えなくなる。体外受精前日の深夜、酒臭い夫は足をもつれさせながら帰宅。翌朝、「精子が出ないから中止にして」と言う。頭に来た。こっちは1回6000円もする鍼灸に2回も通って体調を整えたのに。キレる私に対して、夫は表に聞こえるぐらいの大声でわめき散らす。
「もう離婚したい」、そう愚痴る私に「ちょっと待って。今からそっち行くから」と隣の区から来てくれたのは、元の職場の同僚の美和だった。カフェでお茶しながら、彼女は延々と愚痴を聞いてくれた。
美和は結婚して夫の会社を手伝っているので、パート代は月3万円だけ。それなのに、結婚祝いに三越で買った包丁をプレゼントしてくれた、ありがたい友人の一人だった。お互いの家も行き来し、可愛い娘をいつも連れてきてくれた。美和のおかげで、不妊治療で病みそうになった心も癒やされた。
そんな彼女が、その年の秋ぐらいから元気がなくなったのだ。夫の仕事が大変なのかしら? と思ったが、向こうからは何も言ってこないので、当たり障りのない話に留めていた。