坊さんが朝風呂で死んだ

翌日、曽祖母は93歳で亡くなった。老衰だった。当時は自宅で通夜・葬儀が営まれることが多く、襖を外して二部屋つないだ座敷は親戚でいっぱいに。7歳にして葬儀に参列した私は、坊さんのうるさい読経にひっくり返りそうなぐらい驚いた。

その後、お手伝いとして坊さんにお茶を出すことに。どうぞと差し出すと、「おぉ、ありがとう」とズーッ、ズズと大きな音を立ててお茶を飲む。「何年生ね?」、坊さんがそう聞いてきた時、私ははっとした。あの錆臭い臭いがしたからだ。私はお盆を持って台所に駆け込んだ。後で祖母から「坊さんの質問に答えんで失礼か」とこっぴどくられたが、坊さんが次の日、朝風呂に入っている時に亡くなったことを知った。

それから上京するまで臭いを感じることはなく、花の女子大生を経て東京でOLになった私。その時の上司は外資のグローバル企業出身だったが、過去を自慢するわけでもなく、日常の些細なことを面白おかしく話す、人望の厚い人だった。

ある日の午後、私が取引先から戻るとオフィスには上司が一人。「戻りました」と挨拶する私に、上司は「おぅ、お疲れさま!」と手招きした。「これ、お客さんから貰ったもなか。早い者勝ちだから食べて」と箱を差し出す。わあ! と手を伸ばした時、私は記憶に残る、錆臭さを感じた。「まさか。換気が悪いだけ?」と思ったが、美味しいはずのもなかはまったく味がしなかった。

次の日、上司は来なかった。午前10時、オフィスがざわつく。「何かあった?」と前の席にいる人に聞くと、上司が明け方、就寝中に脳梗塞で亡くなったとのことだった。可愛がってくれた上司の死を知り、しばらくショックで放心状態だった。