中尾彬さん(左)、池波志乃さん(右)(撮影:宮崎貢司)
仲睦まじい中尾彬さん、池波志乃さん夫妻は、それぞれ大病を経験したことをきっかけに、人生後半の始末に着手しはじめた。「ものを手放したことで楽しいことが増えた」という2人に《身軽になるコツ》を聞いた(構成=山田真理 撮影=宮崎貢司)

楽しんでやらないと続かない

中尾 コロナのせいで時間の余裕ができて、この1年半で150冊は本を読んだかな。それも、ここ数年で整理した本のなかで「これは処分せずにおこう」と決めた本を30~40年ぶりに再読してるんだ。

池波 私たちは6年くらい前に、家から何から大がかりに断捨離したのよね。千葉のアトリエ、沖縄のセカンドハウス、都内の自宅に2人の持ち物がそりゃもう大量にあって。業者さんに引き取ってもらうときは、本だけでも軽トラックで何回も往復してもらったわね。

中尾 手元に残した吉行淳之介さんや開高健さんの作品などが、この年になってわかるようになってね。文章から浮かんでくる「絵」が、30代で感じたものとはまったく違うんだ。それが実に面白い。

池波 私は推理小説が大好きで、買う本はその系統ばかり。でもあなたが「志乃に合うと思うよ」と勧めてくれた本を手に取ったら、面白くて。昔の紀行文や世界の食文化の本を読んで、「次はこの料理を作ってみよう」ってなるの。

中尾 だから、台所用品や調味料もだいぶ処分したはずなのに、最近また増えてきたんじゃないか?

池波 結婚したときからの習慣で、夕食には毎日「お品書き」を書いて、いろいろ手作りしてきたでしょう。でも60歳を過ぎる頃、今後は手の込んだ料理はプロの店で、特別な食材は旅行先で食べようと2人で話していたのよね。それがコロナで自宅で過ごす時間が増えたから、慌てて買い直したの。

中尾 「おーい、またなんか宅配が届いたぞ」。(笑)

池波 最近のお鍋やフライパンは軽くて性能もいいから、古いものを捨てたことは後悔してないわ。ただ通販は失敗もよくあって、「小さな麺棒が欲しい」と注文したら、餃子の皮用の極小サイズが届いちゃった(笑)。仕方がないから、水餃子を皮から手作りしてます。

中尾 ワンタンも絶品だよ。台所周りでいえば、来客セットのように使う予定のない食器もあらかた処分した。そうして今の自分たちに不要なものを片づけたら、新しいものが入る余地ができたわけだ。

池波 終活や断捨離って、「一度捨てたら、もうものは増やしちゃいけない」とか、堅苦しく考えがちな人が多いんじゃないかしら。

中尾 そもそも片づけは今の生活を快適にするためにやるんだから、遊び――といっては何だけど、あれこれ工夫しながら楽しんでやらなきゃ長続きしないだろう。

池波 最初は面倒に思っても、いざ手をつけてみると「ああ、さっぱりした」とか、新しく買い替えて「すごく便利だわ」って嬉しいことがたくさん増えたね。「私たち、持ち過ぎていたのかもしれない」と気づいたから。