タダでいい気持ちにしてもらって「サンキュー」
朝、目覚めると「サンキュー」と言うんです。だって、この年齢になってくると、目覚めるってこと自体が当たり前じゃないからね(笑)。そしてバッとカーテンを開けて晴れていたら、おひさまにも「サンキュー」。暖かいじゃないですか。なのにタダ。タダでこんなにいい気持ちにしてもらってありがたいと、いつも思っています。
僕の毎日の目標は、うれしい楽しいをいくつ見つけるかってことなの。外を見て、大きなランドセルを背負っている小学生の低学年を見るだけで、ああかわいいなと笑っちゃうわけです。
こんな楽天家の僕も少し落ち込んだ時期があります。50歳を過ぎたころ、映画を見ていても、舞台を見ていても「みんな元気ないなあ」と感じるようになった。当時出演していた『渡る世間は鬼ばかり』の台本読みをしていても、ほかの出演者がぼそぼそしゃべっているように聞こえてね。「ピン子ちゃん、もうちょっと元気な声出せよ。若いんだから」と言ったらみんな不思議な顔して僕を見るわけ。周りはちゃんと聞こえていたんです。
「順ちゃん、一度病院行ったほうがいいよ」と言われて診察してもらったら、感音性難聴だった。もう治らないと聞いて、こんなに明るい人間がさすがに凹みましたね。というのも、人が好きな人間だったのに、話すのがおっくうになっちゃった。「え? なんですか?」と聞き返すのが嫌でね。やっぱり相手に失礼だと思っちゃって、どうしても一歩引くようになってしまった。
このままじゃ自分を失っちゃう、と思って、自分から「すいません、耳が悪いんです」と言うようにしたんですね。すると、すごく気持ちが楽になった。それからはドラマなどの仕事も「僕は難聴なんですけど、いいですか?」とお尋ねして、OKを取ってから受けることにしています。今出演している朝ドラ『おかえりモネ』の安西和将役もそうです。