次作にも期待したいエンタテインメント小説の新風
エンタテインメント小説に新風が吹いた。今年の第28回松本清張賞を受賞した現役大学生作家のデビュー作は、茨城県東海村を舞台とする青春小説だ。
主人公の朴秀美はこの村にある工業高校の数少ない女子生徒の一人。冴えない学校生活を同じくスクールカースト下位の岩隈真子と戦略的同盟関係を結んでやり過ごしているが、そこに主流派から転落した矢口美流紅が加わる。
秀美は在日四世、真子は両親がいわゆるサブカル、そして美流紅は母子家庭と、育った環境も価値観も異なる三人だが、自らを閉じ込めている世界から抜け出したい思いは同じ。そこに、ひょんなことから大麻の種が秀美に転がり込んでくる。三人はその栽培を学校内で密かに行い、売りさばくことにも成功したのだが──。
こうした筋立てのなかに、時代を超えた文学や映画、少女マンガの固有名詞がちりばめられており、地方社会のもつ独特の閉鎖性と、そこに縛られたくない若い世代の感受性とのギャップが示される。
たとえば作品のタイトルはゴダールの映画から取られているし、冒頭で秀美がアトウッド『侍女の物語』を読んでいることも作品の主題をさり気なく示唆する。藤木という男子生徒が三人の協力者となるのも、大島弓子らの少女マンガに対する理解と愛情で真子と深く結びついているからだ。
原発に依存する地域社会を舞台に、ジェンダーやエスニシティ、格差や文化資本といった主題を巧みに盛り込みつつ、暗くも湿っぽくもならずにポップなエンタテインメントに仕上げた力量には確かなものがある。この「新風」の次作にも期待したい。