立川談志さん
立川談志さん(1936–2011)が世を去って10年。不世出の落語家は、落語界以外からもいろんなことを吸収したといいます。吉行淳之介、色川武大、石原慎太郎といった作家たちとの対談をまとめた『作家と家元』刊行を機に、談志さんの長男・松岡慎太郎さんに、知られざる一面を聞きました

17歳の日記に見た、父・談志の「ピュアな」内面

今年(2021年)、没後10年を機に父・談志の日記を出版することになりました。そこで初めて、17歳のときの日記帳などを読んだんです。父は普段から「俺は突然変異種だ!」と変わり者を自称していましたので、相当ひねくれた子供だったんじゃないかと思っていましたが、日記には真面目で純粋な内面が綴られていました。

16歳で入門して、まだ前座だった頃ですから、落語のことがたくさん書かれていました。日常的なことや、世間のニュースなども細々とありました。いま50代の私から見ると、年相応に子どもらしいところもあり、それを読むのは不思議な体験でしたね。生意気そうなんですが、いろんなことを一生懸命に考えている。じつはピュアな人だったんだと、どこか合点がいった気がしました。

そんな物事を深く考える人間だったからこそ、田辺茂一さん(紀伊國屋書店創業者)や色川武大さんをはじめ、作家さんとのお付き合いを大切にしていたのではないでしょうか。父はよく「落語家と落語の話はできても、人生や人間について語りあうことはできない」と言っていました。とにかく好奇心の塊のような人でしたから、何か考えたい、知りたいというときに、作家さんとの対話から得られることは多かったと思います。