松岡慎太郎さん(撮影:本社写真部)

自分は「ご隠居ではなく八っつぁん」

談志が田辺さんや作家さんたちとお付き合いするようになったのは、二つ目になってからです。お金が少しできて、作家の山口洋子さんがママだった銀座のクラブ「姫」なんかに行くようになった。そこで作家、芸人などの文化人、スポーツ選手、政治家など交友関係が広がっていきました。 

自分でも「年寄りキラーだった」なんて言っていましたが、目上の人に物怖じせず、懐に飛び込んでいくことには自信を持っていたようです。まわりがギョッとするような核心をついた質問も、自分ならできると思っているところがありました。 

世間では、年をとってからの毒舌ご意見番のようなイメージがあって、最近も「家元が生きていたら今のコロナ禍についてなんて言うだろうね」なんて声をかけてくださる方もいます。でも本人は自分のことを、落語に出て来る「ご隠居と八っつぁん」の八っつぁんなんだと言っていました。物知りのご隠居のほうではなくて、「いやァーどうも」って急に訪ねて行って、「人生って何なんですか」とか「嫉妬って何ですか」とか、根掘り葉掘り訊く。まさにあの八つぁんです。とはいえ、わりと一方的に自分の考えをしゃべっちゃうときも多かったですけどね。対談でも談志だけ行数が多いときがあります(笑)。

「こういう意見はどうですかネ」ってしゃべって、「うんうんうん」って受けとめてもらう。そういう関係性が一番心地よかったのではないでしょうか。だから、私から見ても、作家さんに会うときは、どこか安心しているようでした。