2022年3月7日の『あさイチ』(NHK)のテーマは「生きがいが見つからない!女性たちの悩みに答えます」でした。ゲストに茂木健一郎さん、若竹千佐子さんが登場し、茂木さんは脳科学的にアドバイスをしました。『婦人公論』2021年2月9日号では、55歳で夫を亡くした後に小説を学び始め、2018年に芥川賞を受賞した若竹さんの挑戦を、茂木さんが分析。新しく何かを始めることは脳を成長させ、老化防止にもつながるそうです。(構成=山田真理 撮影=本社写真部)
困難によって才能が開花した
茂木 若竹さんの『おらおらでひとりいぐも』は、2018年に芥川賞を受賞した時に読んで、ものすごく感動しました。あの傑作を世に出した天才にお会いできて光栄に思っています。
若竹 天才だなんて。(笑)
茂木 タイトルは宮沢賢治の詩「永訣の朝」の一節で、もとは賢治の妹トシの死の光景でしょう。それを、夫を亡くした70代の桃子さんの「一人で生きる」宣言として読み替えたところに、僕は感動したんです。確か若竹さんも、ご主人を亡くされたことが小説を書き始めるきっかけでしたよね。
若竹 子どもの時から「小説を書きたい」という夢はあったんです。結婚して子育てするなかで押し隠してきたけれど、50歳を過ぎた頃から「一人で生きて小説を書きたい」という思いが強くなって。そんな時、本当に急に、夫が病気で亡くなったんです。私には「夫が犠牲になって、私を一人にしてくれた」と思えてならなくて。夫にすまない気持ちが「なんとか結果を出さなきゃ」というモチベーションになり、あの小説を書きあげられたのだと思っています。
茂木 シニアになると、家族や親しい人との別れが訪れる。ある研究では天才がその能力を発揮する要因のひとつとして、子どもの頃に片方の親もしくは両親がいなくなったケースをあげています。それを認知科学では、「望ましい困難」と呼びます。ご主人を亡くすという困難によって、若竹さんの才能が開花したとも言える。
若竹 昨日読んだ古生物の本で、先カンブリア紀に2度の氷期が訪れた後、爆発的に動物や植物が進化した話を思い出しました。