2021年12月、大分県別府市と九州大学の実証研究で、「温泉には特定の病気のリスクを下げる効果がある」と発表された。温泉入浴で腸内細菌が変化し、免疫力にいい影響を与えるというものだ。温泉の本質を知り、より効果的に入浴すれば、効果もUP!? 
また、旅に出られなくても、温泉の豆知識を得ることで、湯けむりに思を馳せ、癒しを感じることも…。消化器外科医・温泉療法専門医であり、海外も含め200カ所以上の温泉を巡ってきた著者が勧める、温泉の世界。安心して、どっぷりと浸かってみてください。
※本記事は『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(佐々木政一、中央新書ラクレ)の解説を再構成しています

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武将を陰で支えた秘湯

歴史上の人物にゆかりの深い温泉がある。特に戦国時代の武将に関わる温泉が多いのは、戦いの後、傷ついた兵士の手当と保養を兼ねて温泉を活用していたからだ。命がけの戦いを繰り広げた武将たちが大切にしてきた温泉を紹介しよう。

武田信玄・信玄公隠し湯
下部(しもべ) 温泉(山梨県南巨摩郡身延町)他

戦国時代後期に甲斐国(山梨県)を支配していた武田信玄は、温泉の存在を重視し、戦いで傷ついた兵士の手当てと保養に大いに利用した。信玄は温泉の持つ効能に早くから着目していて、下部温泉をはじめ甲斐や信濃国(長野県)の各地の温泉で傷ついた兵士を保養させ、「信玄公隠し湯」伝説が次々と生まれていった。

下部温泉街の「古湯坊(こゆぼう)源泉館」の地下にある大岩風呂が最も有名な隠し湯で、川中島の合戦で、上杉謙信との一騎打ちによって自ら負った刀傷を癒したのが、この岩風呂だと伝わっている。温泉は浴槽の下に張ってある板の間から源泉が直接湧出している。

戦国時代の旧源泉は28~34℃と低く、やわらかな泉質で、体力の衰えた兵士にとっては格好の保養温泉であった。泉温が低いため長時間の入浴が可能で、温泉成分の浸透力も大きく、傷や骨折、筋肉疲労の回復などに好適な条件がそろっていた。

平成18年に湧出した新源泉「しもべ奥の湯高温源泉」は50℃前後と高め。これを適温まで冷ましたものと旧源泉に交互に入ることで血行が促され、療養効果が高まり、特に骨折や切り傷の後遺症に有効。多くのアスリートや事故の後遺症に悩む人々が訪れている。