撮影:藤澤靖子
がん患者の率直な思いをブログやSNSで発信する写真家・幡野広志さん。34歳の若さで血液がんの一種である多発性骨髄腫を発症し、余命宣告を受けている。患者として日々を過ごすなかで、家族や友人などの人間関係を極限まで減らしたという。(撮影=藤澤靖子 構成=吉田明美)

がん患者は「家族」に苦しんでいる

2017年の年末、末期がんの宣告を受けました。僕のがんは、血液中の細胞のがん。半年ほどひどい腰痛に悩まされて病院を回りましたが、ずっと原因がわからなくて。やっとその痛みが骨に転移したがんによるものだとわかったとき、痛みの原因が判明してホッとしたと同時に、妻と幼い息子のことを思ってひと晩泣きました。さらに検査を受けた結果、僕のがんは「完治が難しいタイプのがん」と診断されたのです。

突然突きつけられた、「余命3年」という長くも短くもない時間。僕はがん患者として命や家族について深く考えることになりました。病気のことは書籍やネットでいくらでも調べられます。でも、当事者の気持ちは当事者にしかわからない。

がん患者は、とにかく孤独なんです。これはなかなか払拭できません。僕はがん患者であることを公表したけれど、それを隠して生活している人はとても多いですね。その気持ちはよくわかります。一言で言えば、人間関係が面倒くさくなるのです。

まず、がん患者だと知られた途端、腫れ物に触るような扱いを受けるようになります。友人たちの僕を見る目も明らかに変わって、「かわいそう」という憐れみの対象になったのが伝わってくる。

特に嫌だったのは、がんになったことに対して怒りをぶつけてくる親族。「どうしてもっと早く見つけられなかったんだ」「不規則な生活をしていたから、ツケが回ってきたんだろう」などと今さらどうしようもないことで責められ、とにかく苦痛でした。

一方、がん公表後に知りあう人たちにとって、僕は最初からがん患者。だからこそフラットに接してくれるし、こちらも気持ちがラクなんです。今はなるべくストレスの少ない人とだけ、つきあうようにしています。

一度だけ、病院が開催しているがんサロンに参加したことがあって。病気のことを話しあうのかと思えば、患者さんたちがお互いに家族への愚痴をぶつけあっている。家事や育児から遠ざけられて居場所がなくなっているとか、動けるうちに好きなことをしたいのに何もさせてくれないとか、自分の気持ちを理解してもらえなくて苦しんでいる人ばかり。

よく「患者さんに寄り添いましょう」と言いますが、むしろ、家族が患者を寄り添わせていますよね。家族が悲劇の主人公になって患者に罪の意識を植えつけ、逆に患者のほうが気を使わなくてはならなくなる。だから家族には弱音も吐けません。

がんになったことだけでも苦しいのに、最も身近な家族との関係に悩むなんて、ばかばかしいと思いました。