コロナ禍で打撃を受けた業界と成長した業界の違いとは――(提供:photoAC)
私たちの生きる世界は、VUCAと言われる不確実で先の見えない時代に突入したと言われています。2020年初頭からコロナやウクライナ紛争など思いもよらない事態を招き、日常生活ではスマホの普及やGAFAMと呼ばれるプラットフォーマーの台頭等により、デジタルを中心とした「見えないもの」に支配されている――。ビジネスコンサルタントの細谷功氏が、これからの時代を生き残る鍵となる思考力を鍛えるため、「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。第1回は、「見えない世界の広がり」が世の中に与えている変化を、お伝えします。

※VUCA…Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)頭文字を取った造語で、時代の特性を表す
※GAFAM…世界的な力を持った巨大IT企業(Google、Amazon、Facebook(現:Meta Platforms)、Apple、Microsoft)の頭文字を取った呼び名

コロナ禍で苦しむ人々、株価・仮想通貨バブルとその崩壊

コロナ禍の真っただ中にいた医療関係者や、人の移動規制によって大打撃を受けた旅行業界、さらには外出規制や休業要請等による自主規制等によって休業や時短営業を余儀なくされた飲食業界や教育産業関係者が悲鳴をあげながらもがき苦しむ中、2021年8月アメリカのダウ工業株30種平均は3万5625ドル40セントと、史上最高値を更新しました。

また同様にビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)も、同年冬には4年前の狂乱バブルを上回る史上最高値を更新し、年が明けてもさらに伸び続け、5月に約50%の下落があって落ち着いたものの、「コロナ前」をはるかに上回る価格で依然として推移した後、コロナ禍の収束がわずかながら世界的に見えてきた2022年になってから暴落しました。

わが国でも同様に、コロナ後に一度落ち込んだ後に伸び続けた日経平均は、年明けの2021年2月に約30年ぶりに3万円の大台に突入した後に下降したものの、その後もコロナ前を大きく上回る値を維持しています。

理論的には株価に発行済み株式数をかけた時価総額は、その企業の資産、負債、将来生み出す価値の累積(の現在価値)等から算出される数字が一つの目安となりますから、基本的には企業の直近の業績や将来性とも相関するはずです。しかし、コロナ禍における株価の動きはどう考えても違和感のあるものでした。

もちろんEコマースやリモートワークのためのWebアプリ等、一部のデジタル企業等では逆にコロナ禍が追い風となって史上最高の売上や利益をあげているところはありましたが、株式市場全体を代表するはずのダウ平均や日経平均が史上最高に近い数字となることは、なんらかの形で実体の社会経済と株式市場とが乖離していることを意味しているように見えます。

『見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出 』(著:細谷 功/中公新書ラクレ)