『ディズニー・ブック』の魅力について語ってくれたラン・ランさん(撮影◎本社・中島正晶)
ラン・ランさんは1982年中国・瀋陽に生まれ、3歳でピアノを始めます。13歳の時には、チャイコフスキー国際青少年音楽家コンクールで第1位を獲得しました。17歳で、シカゴ交響楽団のラヴィニア音楽祭にアンドレ・ワッツの代役として演奏し、一躍スターの座に。鮮烈なデビューに続き、世界中で数々のコンサートを成功させました。
2004年にはユニセフの国際親善大使に任命されます。北京オリンピック開会式、オバマ大統領ノーベル平和賞受賞コンサートに出演。アナン国連事務総長、米国大統領ジョージ・W・ブッシュ、エリザベス女王2世など、世界のトップのために演奏した経歴を持ち、その華々しいステージは枚挙に暇がありません。
日本では2009年の映画『のだめカンタービレ最終楽章』で、主人公“のだめ”の演奏の吹き替えを手がけ、大きな話題を集めました。そんなラン・ランさんが、このたび、長年愛され続けているディズニーの名曲を収録したアルバム『ディズニー・ブック』をリリースしました。
世界トップのピアニストであるラン・ランさんに、アルバムに込めた思い、そして家族、音楽について伺いました。(構成◎岡宗真由子 撮影◎本社・中島正晶)

ディズニーの心を伝える作品を作りたかった

幼い頃、どんなアーティストに感化されてピアノを始めることになったのかと私はよく聞かれます。ベートーヴェンやバッハという答えを期待されているのを知っていますが、私の心を初めて撃ち抜いたのはテレビから流れてきたアニメ『トムとジェリー』のピアノ演奏のシーンでした。ピアニストに扮した猫のトムが初めはゆっくり、でも二人の追いかけっこが加速するにつれてどんどんスピードアップして弾いていく様に夢中になりました。自分もどれだけ指を速く鍵盤の上で滑らせられるのか確かめたくなったのです。

『ディズニー・ブック』というアルバムは、大人も子どもも童心に帰ることができるお馴染みのメロディと、クラシカルなピアノの音を結びつけるというのをテーマにしています。すべての曲を一から編曲して作り上げました。初めはディズニーの曲以外に『トムとジェリー』や、交友がある大好きな作曲家・久石譲さんの楽曲を含める構想などもありました。でもディズニー作品には多くの共通項があり、その世界観をいかすためにも全てディズニーの曲で構成されるアルバムを作ることに最後は落ち着いたのです。

私のディズニーの思い出は、13歳の時、生まれて初めて訪れた日本のディズニーランド。いつも厳しい父が、仙台で開催されたチャイコフスキー国際青少年音楽家コンクールに優勝した私を、そのご褒美にと連れて行ってくれたのです。ディズニーの世界に足を踏み入れた瞬間は、コンクールに優勝した時よりも心が躍ったのを覚えています。まさしくディズニーは夢の国でした。

シンデレラ城をバックに演奏するラン・ランさん(Disneyland(R) Resort: (C)2022, Richard Harbaugh)

私にとって特別思い入れのあるディズニーのアルバムを作るということで、クラシックピアニストであるスティーヴン・ハフ 、ジュリアード音楽院のナタリー・テネンバウムなど錚々たる作曲家が編曲を担当してくれることになりました。彼らを含めた多くのアーティストと共に、ショパン、リスト、ラフマニノフといったクラシック、それから印象派のラヴェル、ドビュッシー、またジャズのガーシュインといった作曲家のテクニックを曲の中に織り交ぜていくという挑戦をしています。

巨匠たちの当時のスタイルに忠実に、それでいてディズニーの心を伝える作品を作りたかった。私の名を冠している限り、本当に質の良いものが出来上がるまでは世に出すことはできません。妥協せずに取り組んだ結果、クラシック音楽に引けを取らない作品に仕上げることができたと思います。中でも『メリー・ポピンズ』の「2ペンスを鳩に」、昔の映画ですが『マペット・ムービー』の「レインボー・コネクション」は素晴らしい出来になりました。妻のジーナ・アリスが歌ってくれた「星に願いを」もぜひ聴いていただきたい作品です。

ディズニー・ブック (デラックス・エディション)