(イラスト:多田景子)
人生経験を積んだぶんだけ感情が豊かになるのは嬉しいことですが、不安や怒り、妬みといった負の感情はできるだけ早く手放したいもの。いつも明るく、今を楽しむための思考法を伝授します(構成=内山靖子 イラスト=多田景子)

心がメタボになると負の感情が膨らんでいく

私たちが負の感情に振り回されてしまうのは、心が本来あるべき姿ではなくなっているからだと、私は考えています。

禅の教えでは、人間は誰しも一点の曇りもない「美しい心」を持って生まれてくるもの。それを「本来の自己」と言ったり、「仏性(ぶっしょう)」や「真如(しんにょ)」という言葉で表現したりするのですが、さまざまな経験を通して感じた「執着」「妄想」「不安」や「怒り」「妬み」といった負の感情に、美しい心が覆われていく。

負の感情というのは、意識しないとなかなか剥がれ落ちないうえに、知らぬ間に心を覆い尽くし固まってしまうのです。私はそれを「心のメタボ」と呼んでいます。

また、好むと好まざるとにかかわらず、現代は膨大な情報が押し寄せてくる社会であることも負の感情にとらわれる原因でしょう。「これを持っているのが普通」「このくらいの貯金がないと、老後が不安です」といった基準が、テレビやインターネットに溢れ、私たちの心を乱すことで、心のメタボ化にもいっそう拍車がかかっているのだと思うのです。

では、いったいどうすれば、心の体脂肪を削ぎ落とし、本来あるべき美しい心を取り戻すことができるのか。体脂肪を減らすなら、食事指導を受けたり、薬を服用したりするといった方法があるでしょう。けれど、心の場合は自分自身でスリム化していくしかありません。そこで役に立つのが、禅の教えです。

禅の教えとは、「今、このときを大切に生きる」というもの。人生は一瞬一瞬の積み重ねです。だからこそ、過去でも未来でもなく、「今」にすべてのエネルギーを注いで生きていきましょう、というのが基本的な考え方になります。

禅の中に「喫茶喫飯(きっさきっぱん)」という言葉があります。これは、余計なことは考えず、お茶をいただくときはお茶を飲むことだけに集中し、ご飯をいただくときはご飯を食べることに集中しなさい、という教えです。

今、目の前にある成すべきことに集中し、心を込めて丁寧に向き合っていく。それを積み重ねていけば、進むべき道に自然と導かれるし、ふと振り返ったときに、納得のいく人生が築かれている──。そんな生き方を極めていくことこそが、禅が目指している境地なのです。