(イラスト=川原瑞丸)
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「透明人間」について。ある日、初対面の人から「あなたは眼中にない」という態度をとられたスーさん。そのことにむしろ「よかった!」と安堵したそうでーー。

透明人間

先日、私は透明人間になった。時間にして3分くらい。前回透明人間になったのは、確か6年くらい前だったと思う。どこでそうなったかを詳しく記すと仕事に支障をきたすのでやめておくが、要は「あなたは眼中にない」という態度をハッキリと、初対面の人にとられたのだ。

意図的にやられたのなら嫉妬や嫌がらせなので、「まあ、嫌ねえ」で済ませてしまえばいい。しかし、前回も今回もそうではなかった。前回は複雑な心境だったが、今回は違った。

私を眼中に入れなかった人に悪意などなかった。完全に無意識だった。私は相手の視界に入る位置にいたのだが、超有名人が私の隣にいたので、全神経がそちらに集中したのだ。ジェーン・スーという人物の存在も認識していなかった。

会社員だった頃にはよくあった話だ。取引先があからさまに上司としか話をしなかったり、街で声を掛けてきた見知らぬ男性が、友人のほうしか見ていなかったりなんてことがザラにあった。

よく知らない相手から「あなたには一瞥をくれる価値すらない」とやられるのは、若い私にはキツい経験だった。相手が無意識なときは、なおさらだ。そんなこと気づいてもいないという顔をしながら、内心では「自分には存在する価値もない」といじけるのは、みっともなく気分が悪かった。