最後の舞台に挑んだ中野さん(右端、車いすの女性)(写真提供◎中野さん)
人生後半に新たな扉を開いた人のなかには、仲間がいたからこそチャレンジできた人もいれば、勇気を出して一人で未知の世界に飛び込んだ人もいる。さまざまな方法で「好き」を行動に移すことができた女性たちに会いに行ってみると――

前編よりつづく

趣味を楽しむ暇もなく

23年1月、長野市芸術館シニア演劇アカデミーの第4回公演が上演された。これを「最後の舞台」と決めて臨んだのは、市内在住の中野八重子さん。なんと御年90歳だ。

「役柄は、私と同じ90歳の女性。不思議な力を持つ人形を使って、商店街の危機を救うおばあさんでした。オーディションを見た演出家の先生が考えてくれたみたい」

茶目っ気たっぷりに、目の前で舞台の動きを再現してくれる中野さん。「私は出番が少なかったから」と謙遜しつつも、自分のセリフは一晩で覚えてしまったというし、15回あった練習にも、自宅から歩いて参加した。

「ただね、練習は昼の1時から4時間半あるんです。これがさすがに大変で、何かあって皆さんにご迷惑をかけてもいけないから、今回限り、90歳を区切りに潔く終わろうと決めました」

中野さんは、1932年長野県飯山市生まれ。当時ラジオで放送していた名作を朗読する番組が大好きで、高校卒業後、東京のアナウンス学校へ入学した。

「舞台もやりたいと思って、養成所に通ったりもしました。そこで夢を追い続けていたら、私の人生も変わっていたかもしれませんけれど。人から誘われて小さな新聞社で記者の仕事を始めたら、そちらのほうが面白くなってしまったんですね」