初舞台の仲間と(左端が中野さん)(写真提供◎中野さん)

最後の舞台に立った後も、健康管理は怠らない。朝は「あめんぼあかいな、あいうえお」と発声練習をしながら手足をばたばた動かして体を目覚めさせる。日中は、足腰をなまらせないために家の前の路地を行ったり来たり。

夜はお風呂で「外郎売(ういろううり)」を暗唱する。「全部で5分かかるから、タイマー代わりにちょうどいいんです。これができるうちはボケないでいられるかなと思って、頑張っているの」

食事は、コンビニの宅配サービスを利用しつつ自分で用意。近くに住む次男と時々回転寿司に行くのが楽しみで、「いつも8~10皿は食べちゃいます」。5年前に作った10年用パスポートについては、「もったいないから、誰か連れて行ってくれないかしら(笑)」と、体力も気力も衰えていない。

健康そのものに見える中野さんだが、実はシニア演劇アカデミーの第1回公演前、健診で肺がんの疑いが指摘されていた。しかし、心配をかけまいと周囲には話さず、検査を受けながら参加。舞台を終えてから治療を開始したという。幸い再発もなく、なんとその後、第3期、第4期と同劇団の公演に出演できたのだ。

「人生って、いつ何があるかわかりませんね。60歳の時に勇気を出したおかげで、舞台の楽しさを知れたし、人生の終盤になって人との縁にも恵まれた。生きてきてよかったなあと思うんです」

家族との別れや病気を乗り越え、90歳になっても舞台に立った。「この経験をお年寄りが集まる場所でお話しして、『シニアの皆さん、元気を出しましょうよ』って励ます会とかできないかしら。それが次の目標ですね」と、きらきらした目で語る。

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いくつになっても「新しいこと」を思いつき、チャレンジしようとする気持ちを忘れない。それが生きるエネルギーになるのだと、しみじみ実感できる取材だった。