現在、50歳。小学校教諭と二足の草鞋の森林さんは、監督が圧倒的な力を持つことがあたりまえとされてきた高校野球界に一石を投じ、今回、見事に有言実行してみせた。
そのコーチング理論や指導法、コミュニケーションの取り方等について、企業をはじめとするあらゆる方面から講演の依頼が引きも切らないという。
一躍時の人となった森林監督とは、どういう人物なのか。そして経営論にも通じる森林監督の「Thinking Baseball」とは―。森林さんの職場である慶應義塾幼稚舎でお話を伺った
(構成◎吉田明美 撮影◎本社 奥西義和)
エンジョイベースボール
たくさんの方々のおかげで日本一になることができました。ありがとうございます。
毎日講演や取材の申し込みなどがあり、選手も私たちも注目されてめまぐるしい日々ですが、これも勉強だと考えています。
チームはすでに新しい体制になって、センバツにつながる秋の大会に向けての新たなシーズンが始まりました。優勝メンバーはほとんどいなくなるわけですので、チームは地続きではありません。選手たちも私も、もう気持ちは切り替えています。
優勝したおかげで「Enjoy Baseball=エンジョイベースボール」という慶應の目指す野球がより注目されるようになったのは、喜ばしい限りです。
エンジョイといっても、単に「楽しい野球」ではなくて、スポーツなので当然勝ちたい。そのために自分の技量を上げて、チームも強くなり、その結果、勝利という果実が得られる。より高いステージで野球をして「より高いレベルの野球を楽しもう」という意識を持つべきだという考えです。負けてもいいだなんて全くなくて、勝利は貪欲に追求してきました。
準備できることはすべてやったつもりです。夏の甲子園はとにかく暑い! 熱中症対策や疲労対策についてもあらゆることを準備しました。
また、うちのチームは初戦が6日目の試合だったので、この夏、初めて導入された「クーリングタイム」について、経験者から話を聴こうと、日ごろから付き合いのある土浦日大の小菅監督に電話で様子を聞きました。クーリングタイム10分間の使い方についても分刻みで考え、みんなで練習しておきました。
監督同士の付き合いも大事にしています。仙台育英の須江監督も、お互いに遠征して、練習試合を通じて旧知の仲。川崎駅近くの居酒屋で「この夏は決勝戦で会おう」と言ってたら、本当になっちゃいました!(笑)
「メンタルトレーニング」も準備の大きな要素のひとつ。今回の大会前から選手にずっと言ってきたことは、「いい顔をして野球をやろう」ということでした。日ごろから心が安定していないと、いざという時にいい顔はできません。選手たちは甲子園でも日々目を見張るほど成長したし、特に心の成長が大きかった。もちろん勝負をかけた試合をしているのですから、苦しい、つらい場面もありました。ミスも出ます。決勝戦ではエラーが4つもあったんです。でも、ミスは起こるもの。そんな中で、選手たちはお互いに声を掛け合って、気持ちをすぐに切り替え、冷静に、いい笑顔でプレイしていた。最後の最後まで楽しみ尽くせたのではないでしょうか。
慶應の選手たちが、これまでの高校野球とは少し違う本当の意味のエンジョイベースボールを体現してくれたのではないかと思っています。