地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんは、「異なる文化をもつ外国人には必ずしも通じない」と言っていて―― 。
最も優れた地図記号
私が最も優れた地図記号だと思っているのは「温泉」だ。
日本人なら知らぬ人はいないだろう。
湯壺から湯気がゆらゆらと立ち上った様子がシンプルに表現されており、これは誰が見ても温泉以外のものを想像できないだろうと漠然と思っていたところ、数年前に国土地理院で行われた「外国人にわかりやすい地図表現検討会」に委員として出席した際に認識が変わった。
国土地理院の職員が外国人観光客で賑わっていたコロナ禍以前の東京の浅草などへ出向き、さまざまな国籍の人たちに突撃リポートよろしく温泉マークを含む既存のいろいろな地図記号について聞いて回ったそうだ。
いくつかの国の人から「温かい料理を思わせる」という反応が示されたという。改めてこの記号を見れば、なるほどそのように見えなくもない。