心のたすき
5区を走りたいと思い始めたのは福島・いわき総合高時代だ。
08年1月、広島県で行われた全国都道府県対抗男子駅伝で福島県代表に選ばれ、1区区間賞の快走を見せた。高校時代は貧血に苦しみ、3年生になって食事療法で症状が改善した柏原にとって、全国レベルの大会で初めて注目された試合だった。
翌日、福島県のチームメートで順大時代に5区で活躍した今井に、帰る途中の広島駅でサインを書いてもらった。「5区ってどういう区間ですか」と質問すると、「大変だけど、やりがいがある区間だよ」と答えが返ってきた。この時、同郷の先輩から心のたすきが渡されていた。
卒業後は富士通に進み、マラソンに挑戦したが、故障に苦しむ時期が長く、自己ベストは2時間20分45秒にとどまった。17年に現役を引退後、陸上部だけでなく、アメリカンフットボール部や女子バスケットボール部の活動支援に携わった。
その際にも、「自分が思っている以上に、箱根駅伝という舞台は、すごい力を持っているんだな」と、影響力の大きさを感じる場面は多いという。現在は富士通に勤務しながら、文化放送のラジオ番組「箱根駅伝への道」でナビゲーターを務めている。
「今の学生に寄り添っていろいろな話を聞き出せればいいし、そこで選手たちが何か気づいてくれればうれしい」。経験を生かしながら、今度は後進に心のたすきをつないでいる。
※本稿は、『箱根駅伝-襷がつなぐ挑戦』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『箱根駅伝-襷がつなぐ挑戦』(著:読売新聞運動部/中央公論新社)
2024年に第100回を迎える箱根駅伝。ライバルたちの熱い競り合い、逆境からの栄冠、番狂わせの力走……胸躍る勝負の歴史をつづる。