羨望の的になった“てっちゃん”

クラスの中でひときわ小さく、勉強もビリで、喋っても吃音になってしまう、てっちゃんという子供がいた。てっちゃんのお父さんは炭鉱の事故で亡くなり、お母さんとふたりきりで市営住宅に暮らしていた。

私たちはてっちゃんをいじめていたつもりはなかったが、彼はいつも孤立していたし、男子は体育の授業の団体競技でてっちゃんが混じると、あからさまに嫌そうな顔をした。普段からてっちゃんは、なにひとつ悪いことをしたわけでなくても「ごめんね」と誰にでも彼にでも謝るのが口癖だった。

そんなてっちゃんが、ある日クラス中の羨望の的となる出来事があった。てっちゃんの、箱式ですらないチャック式の布の筆入れの中から、紫や透明の小さな輝石が幾つも出てきたのである。

まずは隣の席の子供が気がつき、あっという間にてっちゃんの机の周りには人だかりができた。

てっちゃんはそれらの石を、かつてお父さんが炭鉱で見つけて自分のために持ってきてくれたものだ、とたどたどしく説明した。

お父さんが今はこの世にもういないことは皆知っていたが、お父さんはてっちゃんのこと大好きだったんだねえ、優しいお父さんだねえ、と我々はてっちゃんを羨ましがり、惨めだとばかり思っていた彼への見方を改めた。