漫画家・文筆家として活躍するヤマザキマリさんは、17歳のときに単身でイタリアに渡って以来、フィレンツェ、シリア、ポルトガル、アメリカなど、様々な土地で暮らしてきました。そこで出会った人との思い出を綴った著書『扉の向う側』が11月に刊行。古代ローマの魅力を伝えてくれたフィレンツェのカメオ店夫妻、リスボンのアパートの頑固で親切な隣人、キューバの海岸で夜を共に過ごした娼婦…。多様な人たちの生き様が映画のワンシーンのように鮮やかに描かれています。彼らとの出会いがマリさんの人生にどのような影響を与えたのでしょうか? 見知らぬ人との偶然の出会いが持つ“ご縁の力”について、じっくりと語っていただきました。今回はその前編です。
見えている世界なんて、ちっぽけ
『扉の向う側』というタイトルの“扉”というのは、私がこれまでの人生で出会ってきた人たちを表しています。
世界のあちこちで偶然出会った人たちが、ふとしたきっかけで自分たちの扉を開けて、それぞれの過去や抱えている問題を見せてくれる。それによって私は世界の広さは目に見えている物理的なものだけではない、ということを痛感してきました。
国が変われば価値観や倫理観もまったく違ってきますから、苦悩や喜びも皆それぞれ。そんなことも含め、世界というものが、自分が見ているものよりも、はるかに大きいということを気づかせてくれた人たちとの出会いを描いたのがこの本です。