『三体』著◎劉慈欣

 

桁違いのベストセラーがついに邦訳

2008年に中国で出版され、シリーズ累計で2100万部に達する大ベストセラーとなったSF小説である。14年に英訳版が刊行されると、オバマ前米大統領ら著名人が激賞したこともあって英語圏でも『三体』ブームが巻き起こり、15年には世界最大のSF賞であるヒューゴー賞長編部門を受賞。アジア初の快挙を成し遂げた。世界中で翻訳されて日本でも期待が高まるなか、3部作の1作目となる本書が今年7月に発売されると、たった1週間で10刷。瞬く間に10万部を超えるヒットを記録した。

物語の始まりは1967年。文化大革命で物理学者の父が粛清される姿を目の前で見た娘・文潔(ウェンジエ)は、狂乱の時代に押し流されるように辺境の地の極秘施設に収容される。そこには巨大なパラボラアンテナが聳(そび)え立っていた。そして四十数年後の現在、ナノマテリアルの開発者・汪淼(ワン・ミャオ)は軍人や警察官も集う謎の会議に突然招集される。科学者の相次ぐ不審死、汪淼を襲う超自然的で不可解な出来事。それらの背後にはいったいどんな存在が潜んでいるのか。

衝撃的な面白さだ。異星人とのコンタクトを描く王道SFでありつつ、辺境の地での名もなき人々の細やかな生活実感が胸に染み、上質なミステリーに似た謎解きの展開に驚愕し、汪淼がログインするVRゲーム内の美しくも無慈悲な映像描写に圧倒される。すさまじい想像力。同時に、人類の歴史や私たちのこの現実社会が価値観のまったく異なる遠い世界からのまなざしに照らし出されたときにいったいどう映るのか、深く考えさせられてしまう。

物理学の知識があればより楽しめるだろうが、皆無の私でも心揺さぶられた。早く続きが読みたい。

『三体』
著◎劉慈欣
訳◎大森望、光吉さくら、ワン・チャイ
監修◎立原透耶
早川書房 1900円