周囲の環境だけではなく生活様式も変化

どうもブライトンは人気らしいのだ。というのも、ハイブリッドワークを取り入れる企業が増え、週に3日だけオフィスに行けばいい、みたいな働き方改革がコロナ禍で進んだため、海辺のリゾート地(=ブライトン)に住んでたまに都会(=ロンドン)に通勤する、というライフスタイルを選ぶ人が激増したのだ。とはいえ、海辺の住宅は高すぎるので、内陸部にまでこの波が及んでしまった。

おかげで、うちのような元公営住宅地でも住人の入れ替えが起きた。まず、住人たちがめっきり若く、スタイリッシュになり、裕福そうな移民が増えて国際化した。通りがミドルクラス風になるってこういうことなのね。つくづくそう思う。血統書付き、みたいな立派な犬を連れて散歩しているパリッとした人々の姿を窓から見るにつけ、自分の家にいながら、なんか落ち着かない。

(絵=平松麻)

変わったのは周囲の環境だけではない。生活様式も変わった。久しぶりに近所の郵便局(と言っても、雑貨屋の一角)に行く道すがら、そんなことを考えていた。ほんの数年前まで、頻繁に郵便局に通ったものだった。が、いまやすっかりそれもなくなった。以前は日本の出版社に送る契約書だの許諾書だのという書類があったのだが、ここ数年で書類のデジタル化が進み、オンラインでの署名だけで済む会社が増えたので、わざわざ茶封筒を持って郵便局に行くこともなくなったのだ。

とはいえ、古式ゆかしい紙の書類を使っている出版社もある。それで数ヵ月ぶりに郵便局に向かったのだが、雑貨屋の隅にある郵便局のカウンターに立っていたのは、いつものインド人女性だった。だが、「ハロー」と挨拶しながらわたしは戸惑った。その女性は、以前からそこにいた店主の妻のような気もするのだが、全体の印象が前に会ったときとまるで違っていたからだ。喋り方もやけにゆっくりになっていて、言葉が聞き取りにくい。これはいつも窓口に立っていたあのチャキチャキした女性ではなく、彼女の母親ではないか、と思った。だが、いくら親子でも顔がこれほどそっくりということがあるだろうか。