顔見知りを本人だと思わなかった

事務的な会話を交わしながら、封筒を渡し、スタンプを押してもらったりして用を終えた。以前は世間話をした仲だったから、こんなにあっさりした対応はないだろう。やっぱり彼女のお母さんか誰かだったんだろう。うっかり馴れ馴れしい口を利いたりしないでよかった。そう思って帰宅したのだったが、それから数日たってボランティアに行ったとき、人から聞いて事情を知った。雑貨屋の店主の妻は、ロックダウン中に脳卒中の発作を起こしたのだという。だが、医療機関がコロナでパンク寸前の状態だったために治療が遅れ、後遺症が残ってしまった。それで、ずっとリハビリを続けてきたらしい。ようやく短い時間なら窓口に立てるぐらいまで回復したのは、ごく最近のことだそうだ。

そういえば去年も、その前の年末も、クリスマスカードを送るために郵便局に行ったとき、窓口にいたのはパートの人だったように思う。雑貨屋の店主の妻の不在について深く考えることもなかったが、そんなことになっていたとはまったく知らなかった。

顔見知りの人が減っていく町で顔見知りの人に会ったのに、わたしは本人だと思わなかったのだ。

なぜかそのことに衝撃を覚えた。そして次に郵便局に行くときには、彼女に思い切り馴れ馴れしい口を利こうと思った。

どうしてそんなことを強く思ったのかわからない。それは何かに対するリベンジのような気もする。