「今回は、《他者の靴を履いてみたその先》を書きたかったのです」(撮影:藤澤靖子)
英国ブライトン在住で、『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』などの著書をもつブレイディみかこさん。『婦人公論』本誌・WEBでエッセイ「転がる珠玉のように」も好評連載中です。そのブレイディさんの2作目となる長篇小説は、イギリスで実際に起きた出来事をモデルとした物語。女性が自分たちの置かれた状況に異を唱え、立ち上がった出来事を、日本の人たちにも知ってほしいと思ったそうで――。(構成:古川美穂 撮影:藤澤靖子)

イギリスで実際に起きた出来事をモデルに

本書は私の2作目の長篇小説となりますが、0から作り上げた物語ではありません。イギリスで実際に起きた出来事がモデルです。

2014年、ロンドン東部にある公営のホームレスシェルターから突然立ち退きを迫られたシングルマザーたちが、再開発して高値で売る目的で空き家になっていた公営住宅を占拠しました。

イギリスではサッチャー政権以来、経済政策の一環として公共支出の削減が実施されてきたという背景があります。この状況に異を唱えた彼女たちはグループを作り、「必要なのは空き家を投資対象にすることではなく、そこに低所得者が住めるようにすることだ」と訴えました。この運動は多くの注目を集め、最終的に区長から公式に謝罪を勝ち取ったのです。

知識人や政党の力を借りず、弱い立場の当事者が自分たちで状況を変えた。そんな話は前代未聞で痛快で、こんなふうに連帯して立ち上がった女性たちがいることに、私も勇気づけられました。